2026-09-07|lullaby株式会社 代表取締役 坂口 大晟

海外AI SDR 5社の資金調達マップ
——Clay・11x・Artisan・Unify・Qualifiedで何が分かれたか

営業AIエージェント」「AI SDR」で海外の動向を調べると、Clay・Qualified・11x・Unify・Artisanという名前が繰り返し出てきます。どれも数十億円〜数百億円規模の資金を集め、同じ「AIが営業を自動化する」カテゴリに括られがちですが、実際に調達額・評価額・アプローチの起点・価格モデルを並べると、5社はまったく違う場所を狙っています。この記事では、各社の資金調達データと機能・価格の一次情報をもとに、海外AI SDR市場の「何が分かれているのか」を整理し、日本のBtoB営業組織が比較検討する際に使える評価軸を提示します。

資金調達マップ——同じカテゴリでも規模も評価額も違う

5社の直近ラウンドと評価額を並べると、Clayが頭ひとつ抜けています。

企業ポジション直近の調達評価額・規模
ClayGTMデータ/オーケストレーション層Series C $100M(2025年8月・CapitalG主導)$3.1B→$5B(2026年1月・従業員テンダー時)/顧客8,000社超(2026年8月時点の調査値)
QualifiedインバウンドAI SDR(Salesforceネイティブ)Series C $95M(Sapphire主導)2026年4月1日にSalesforceが買収完了/Piper導入300社超(2026年8月時点の調査値)
11xアウトバウンドAI SDRSeries B $50M(2024年11月・a16z主導)$350M/累計調達$76M
Unifyシグナル起点のウォームアウトバウンドSeries B $40M(2025年7月・Battery Ventures主導)$260M
ArtisanアウトバウンドAI BDRSeries A $25M(2025年4月・Glade Brook Capital主導)評価額非公表/顧客約250社超

Qualifiedは2026年4月にSalesforceへの買収が完了し、Agentforceへ統合されました。カテゴリを作った側のプレイヤーが、最終的にプラットフォーマーへ吸収される——という展開自体が、このカテゴリの成熟スピードを示しています。

同じ「AI SDR」なのに、なぜ5社とも生き残れているのか——起点で分かれる3タイプ

5社が正面衝突せずに共存できている最大の理由は、アプローチの起点が違うことです。相手がどんな状態にいるかで、狙う企業がそもそも重なりません。

起点相手の状態該当企業
インバウンド相手が自社サイトに来ている(能動的)Qualified(Piper)
ウォーム転職・資金調達・技術変更などの行動シグナルがあるUnify
コールド接点ゼロの新規開拓11x、Artisan

Clayはこの3タイプのどこにも属さず、他社の下に入る「データ・オーケストレーション層」というポジションを取っています。11xやArtisanのユーザーがClayを併用することも普通にあり、構造上競合しません。加えてQualifiedはSalesforceネイティブに、ArtisanはHubSpot Venturesの出資を受けHubSpot経済圏に近いところに立っており、顧客が既に使っているCRMによっても選ばれる製品が分かれています。「AI SDR」とひとくくりにする前に、まず「相手のどの状態を狙うツールか」で分類すると、機能の違いが一気に見通しやすくなります。

価格モデルは「実行量」に寄っている——成果連動ではない

価格帯にも構造があります。セルフサーブで安価な軽量型と、商談必須で高額な自律型に二層化しています。

企業課金モデル価格帯の目安セルフサーブ
Clayクレジット従量(データ購入+アクション実行の二重課金)Launch $185/月〜、Growth $495/月〜あり
Artisan従量(席ではなく実行した仕事に課金)$250/月〜あり
Unify個別見積月$1,000〜3,000程度(推定)要商談
Qualified(Piper)個別見積月$3,000〜5,600程度(推定・買収後の体系は未確認)要商談

軽量型は月$200〜500台、自律型は月$3,000〜5,600台という二層構造が見えますが、この5社の中に成果連動(アポ課金・商談課金)を主軸にした価格モデルの企業は存在しません。ClayとArtisanの従量制がもっとも近い形ですが、いずれも課金の単位は「成果」ではなく「実行した処理・作業の量」です。座席数に縛られた定額課金からは離れつつも、成果そのものに紐づく課金へはまだ踏み込んでいない、というのが海外AI SDR市場の現在地です。

11xだけが特殊な理由——資金と評判は別軸で動く

11xはa16z主導のSeries Bで評価額$350Mを付け、累計$76Mを調達したVCブランド先行型のポジションです。一方で2025年3月、TechCrunchの報道により導入企業として掲載していたZoomInfoとAirtableが「顧客ではない」と否定する事態が起きました。ZoomInfoは約1ヶ月のトライアル後「自社SDRより著しく劣る」と評価しロゴ使用を許可していないと説明し、法的措置も示唆。Airtableも短期トライアルのみで本番導入はしていないとしています。この報道を受け、同社の創業CEOは2025年5月に退任しました。

資金調達の規模と、実際の導入実態・評判は必ずしも一致しません。11xの一件はその典型例です。なお、11xの価格・成果は現時点で一次確認が取れておらず、報道ベースの推定にとどまります。海外AI SDRを比較検討する際は、調達額の大きさや評価額だけでなく、実名の導入企業が第三者にも確認できるか(Qualifiedのケーススタディのように顧客側も数値を公表しているか)を必ず見るべきです。

日本のBtoB営業組織が持ち帰れる評価軸

5社とも日本市場では無名に近く、日本語にも対応していません。それでも、このマップから持ち帰れる評価軸は3つあります。

  1. 「AI SDR」を導入前に、狙う起点で自社ツールを分類する——インバウンド対応なのか、シグナル起点のウォームアウトバウンドなのか、接点ゼロのコールドなのか。この記事の3分類に当てはめるだけで、機能過多な比較検討を防げます。
  2. 価格モデルが「実行量」か「成果」かを確認する——海外5社は全社が実行量課金または個別見積で、成果連動はまだ主流ではありません。コンパウンドセールスのように「仮説と結果を紐づけた因果データ」を蓄積する設計になっているかどうかは、価格表だけでは見えないため個別に確認が必要です。
  3. 公表実績が第三者にも確認できるかを見る——11xの一件が示す通り、ベンダー発表の成果は自己申告にとどまる場合があります。導入企業側も数値を公表しているか、業界のSDRベンチマーク(The Bridge Groupの隔年調査のような第三者データ)と照らして違和感がないかを確認する姿勢が必要です。

海外のAI SDR市場は、資金の集まり方と機能の方向性で見ると急速に成熟していますが、「同じカテゴリ=同じ製品」ではありません。自社が商談獲得のどの工程で詰まっているのかを先に言語化し、そのうえで起点・価格モデル・第三者検証の3軸で比較する——このマップの使い方は、海外ツールの検討にも、国内ツールの評価にもそのまま応用できます。

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この記事は「営業AI・AI SDR活用ガイド——種類・選び方・失敗しない導入手順」の一部です。全体像はそちらからどうぞ。

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出典:企業・調達データはCrunchbase News、TechCrunch、各社公式ブログ・料金ページ、Googleスプレッドシート「AI SDR 海外プレイヤー調査【コア版】」(調査時点2026年8月・lullaby株式会社作成)による一次確認済みの範囲に基づく。※印の付いた数値は各社発表・報道・第三者推計であり、一次確認が取れていない。11xに関する報道内容は同社が否定しており係争的な論点を含む。